作者・井浦秀夫

「弁護士のくず」の作者である井浦秀夫は、長野県出身の漫画家です。代表作は、「弁護士のくず」の他に、「少年の国」「AV列伝」「魔法使いの弟子」などがあります。人間の弱い所や建前の裏側にある本音を描くことに長けている漫画家で、庶民の気持ちを代弁するような漫画が多く、沢山の人に共感されています。

プロフィール

1955年、長野県上高井郡小布施町に産まれました。長野県長野高等学校を経て、早稲田大学第一文学部を卒業しています。予備校、大学時代を通して朝日新聞の新聞奨学生でした。テレビ出演などでも知られている弁護士の北村晴男とは、高校の同級生で、学部は違いますが大学も同じでした。北村は「弁護士のくず」第4巻の帯で、同作の推薦文を書いています。大学在学中は早稲田大学漫画研究会に所属していました。早稲田大学漫画研究会OBである東海林さだおのアシスタントを経て1979年に「私は人を殺した」で双葉社の漫画アクション新人賞を受賞し、プロデビューを果たしました。以後は読み切りで小気味のいいコメディーを執筆していたのですが、新人中学教師雨森公平の奮闘記を描いた「雨森公平 先生です!」や、高校生カップルの何気ないながら思春期に成長していくさまをみずみずしく描いた「やる気のまんま」をゲスト連載し、これらの作品は単行本も発売されました。1991年から約半年に渡って連載された「少年の国」は、ひとりの超能力を持つ少女の周りに作為的に生まれた新興宗教団体が舞台となり、発表後に起こった「オウム事件」を予見したと高い評価を得ました。1998年の「職業・AV監督」、「由美香」をきっかけに、アダルトビデオに携わる人々を編集者とともに綿密な取材を重ねて描いたノンフィクション作品を手掛けました。また2003年に連載が始まった、型破りな弁護士を主人公とする「弁護士のくず」は前作である「強欲弁護士銭高守」の主人公の設定とキャラクターを置き換え、テレビドラマにもなったほか、平成18年度小学館漫画賞一般向け部門を受賞しました。

主な作品

  • 1986年「雨森公平 先生です!」・・・中学校に赴任した新人教師が、同僚の美人教師に恋をしたり、学校に漫画を持ってきて他の先生に見つかったりとダメダメながらも奮闘する様を描いた作品。
  • 1987年「なるほどマイフレンド」・・・ひとりの新聞少年の青春を描いた作品。
  • 1987年「脅しの報酬(おどしのおだちん)」・・・作者自薦の初期作品集。
  • 1988年「やる気のまんま」・・・思春期の初々しいカップルの様子を描いた作品。全3巻。
  • 1988年「世間が許さんっ!」・・・地味でダサくてカッコ悪い、だけどちょっといいかもと思わせてくれる、作者の初期の作品。
  • 1989年「天晴れ、桜田!」・・・全3巻。
  • 1991年「うらめピ~」・・・全2巻。
  • 1991年「夜明けの探検隊」
  • 1991年「〔乱入甲子園〕ファウル」・・・作者初の野球漫画。
  • 1992年「少年の国」・・・霊感少女と騒がれ、新興宗教の「神」に祀り上げられた女子高生が、ある事件を起こしてしまうという物語。
  • 1996年「VRG」
  • 1996年「ばかップルズ」
  • 1997年「職業・AV監督」・・・カメラを通して人間の本質を追う、AV監督カンパニー松尾の青春を描いた作品。原作はカンパニー松尾。
  • 1999年「AV烈伝」・・・作者が取材に取材を重ね、セミドキュメントとして描いたAV業界の裏側が新鮮な作品。
  • 2000年「由美香」・・・原作・平野勝之
  • 2000年「魔法使いの弟子」・・・政府や文化、思想、何もかもが新しいものへと移行し始めた明治時代の日本を舞台にした作品。
  • 2003年「強欲弁護士銭高守」・・・「弁護士のくず」のベースを作った作品。熱血漢な主人公が、お金はきっちり取るがその分弱いものをしっかり守ってくれるという弁護士もの。
  • 2004年「弁護士のくず」・・・「人間のくず」と言われるほどのダメ人間ながら、弁護士としては一流の腕を持つ主人公が様々な問題を解決していく作品。

作品の特徴

小市民と呼ばれる市井の人々のセコさ、ズルさを描くことで笑いを取りながらも、その反面で人間の良心、良識、正義の曖昧さをつく作風はデビュー当時から一貫しています。本音としてつい思ってしまう余白に書かれたせりふ外の一言が特徴的です。市井の人々を主人公に据えた青春物語を得意とする作家ですが、元々興味のあった精神的な作品も発表するようになり、それが「うらめピ~」「少年の国」「魔法使いの弟子」に繋がりました。「なるほどマイフレンド」では、自身の大学時代に新聞奨学生として過ごした体験を生かして新聞販売店を舞台に繰り広げられる青春を描きました。寡作家ながら印象深い青春談や人間模様の屈指のストーリーテラーとして、隠れたファンが数多く存在しています。

オススメ作品

井浦秀夫の作品は、初期の物はほとんどが絶版になっていて、中々手に入りません。ですが、近年「弁護士のくず」がドラマ化されたりして脚光を浴びたことで、再び注目され始めています。そんな中復刊になったのが「少年の国」です。この物語は空前の新興宗教ブームだった90年代初頭の日本で、ある平凡な女子高生が神として崇められ、ごく普通の人達がそれに騙されて信者になっていき、宗教団体がどんどん拡大していく様子を実にリアルに描いています。ここまであらすじを読んでピンときた方も多いかと思いますが、この漫画は、「オウム事件」に非常に似た内容になっています。しかもあの事件が起こる数年前に描かれているというのがすごいところです。最終的にこの宗教団体はある事件を起こすのですが、そこも非常に似ていて、私はテレビのニュースで「オウム事件」を知ったとき、真っ先に「少年の国」を思い出したのでした。正直なことを言えば、初めて読んだ当時は、新興宗教というものを良く知らず、こんなのに騙される人がいるのかしらと半信半疑で、あまり印象に残らない漫画だったのですが、あの事件があった時にやっと、全く普通の人がこういうものに騙されるのだという「現実」を突きつけられて、「少年の国」のリアリティを実感したのでした。作品が描かれてから10年以上も経過していますが、今読んでもとても新鮮で面白いのでお勧めです。

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